【完全版】科学的にみた瞑想・マインドフルネスの効果まとめ
瞑想やマインドフルネスがメンタルに良い効果があることは、科学でも実証済みです。心理学、脳科学、精神医学などの根拠(エビデンス)を踏まえ、瞑想の主な3つの効果について詳しくまとめました。
はじめに
瞑想というと、一昔前までは「怪しい」イメージがついて回っていました。
しかし、瞑想にはメンタルに良い効果があることが科学的にも明らかになり、最近ではずいぶんカジュアルなものになりました。
事実、瞑想は、何か宗教的で神秘的な体験を追求するものではなく、思考や妄想に囚われない心の状態をつくり上げるためのトレーニングとも言えます。
過去のことや未来のことをあれこれ考えるのではなく、今この瞬間の呼吸やカラダの感覚に注意を向ける訓練です。
これを「注意がじゅうぶんに行き渡った状態」という意味で「マインドフルネス」と呼んだりします。
瞑想やマインドフルネスの効果に関する研究は2000年頃より増え始め、心理学、脳科学、遺伝学、生理学、精神医学など幅広い領域で、メンタルへのポジティブな効果が多数報告されています。
効果を列挙すると、以下のようになります。
・ストレスの低減
・集中力の向上
・身体的痛みの緩和
・病気に対する免疫システムの向上
・ネガティブ感情への対処能力向上
・幸福や思いやりなどポジティブ感情の高まり
・対人関係スキルの向上
・飲酒や喫煙など依存的行為の減少
・創造性の高まり
効果を挙げればキリがありませんが、このエントリでは、中でも特筆すべき3つの効果(①ストレスの低減、②集中力の向上、③身体的痛みの緩和)について、エビデンスを参照しながら詳しく解説していきます。
①ストレスの低減
瞑想やマインドフルネスの効果として、まず最初に挙がるのは、なんと言っても「ストレス低減」効果です。
ストレスは、不安、悲しみ、恐怖など、さまざまなネガティブ感情と密接に関わっています。
マインドフルネスは、ネガティブ感情をあるがままに観察し、受け入れる訓練です。
ストレスレベルを引き下げる効果があるほか、抑うつ症状の緩和、怒りといった突発的な感情の対処にも効果的であることがわかっています。
ストレス低減効果に関する研究
マインドフルネスがストレス反応を軽減させるという研究は多く、特にマインドフルネスストレス低減法(mindfulness-based stress reduction:MBSR)プログラムを用いた研究の中で報告されている。
MBSR やその他マインドフルネスに基づくプログラムを用いた50以上の研究によって、マインドフルネスがストレスや不安を減少させることが示されている。
それらは質問紙、神経生理学的マーカー(心拍、発汗、扁桃体活性化の fMRI 画像)、またストレス反応の活性化を反映するコルチゾールレベル、研究で恐怖を引き起こすような場面を作り出す実験を行う(たとえば、見知らぬ集団の前で演説をする)などを含む幅広い方法で計測され、実証されてきている。
引用元:『マインドフルネスのすべて-「今のこの瞬間」への気づき』Susan L. Smalley、Diana Winston著、丸善出版、2016年。以下同じ。
マインドフルネスストレス低減法(MBSR)とは、マサチューセッツ大学メディカルスクールのジョン・カバットジン博士が開発した8週間のプログラムです。
瞑想やマインドフルネスの効果に関する研究報告の多くが、このプログラムをベースにしたものとなっています。
文中にある「fMRI」とは、電磁波を使って脳内の活動を画像で見ることのできる機械のこと。
外部からの強いストレス反応に関わる脳内部位「扁桃体」が活性化している様子を、画像で確認することができるのです。
ストレスホルモンと呼ばれる「コルチゾール」の分泌量からも、ストレス状態の変化を計測することができます。
このように、さまざまな科学的アプローチにより、この8週間のプログラムが、人間のストレスレベルを下げることが明らかになっているわけです。
抑うつ症状への効果に関する研究
ティーズデールらの研究グループはマインドフルネスに基づく認知療法を発展させたが、特にメタ認知的なスタンスに力を入れた。
その効果をみるなかで、うつと診断され、寛解期にある患者を対象として伝統的に行われている認知療法とマインドフルネスに基づく認知療法を比較した。
その結果、抑うつ発作に陥る再発率が劇的に異なることを示した。
伝統的な認知療法を受けた患者は62%が再発したが、マインドフルネスに基づく療法を受けた患者はたったの36%しか再発しなかったのだ。
その違いの原因を追求する為、研究者たちは患者の「メタ認知」を測定し、その結果、強いメタ認知的気づきを示す人は最も再発可能性が低いことを発見した。
この研究は、一般的な認知療法と、マインドフルネスを取り入れた認知療法(マインドフルネス認知療法:MBCT)を比較したものです。
認知療法とは、ものごとの受け取り方や考え方にアプローチしてゆがみを修正していく心理療法のことで、うつ病の治療などで広く用いられています。
認知療法にマインドフルネスの要素を取り入れることで、抑うつ発作の再発率に大きな差が生じていることがわかります。
怒りの緩和効果に関する研究
ある研究では攻撃的な性格の3人の青年にマインドフルネス・エクササイズ(足に集中するマインドフルネス)を教え、数週間エクササイズを実践した後では、3人とも攻撃的な性格が和らぎ、内面で激しい怒りを感じていても自らを落ち着ける力が向上していることが示された。
175人のジョージア大学の大学院生の研究では、自己評価においてマインドフルネスの得点が高い人は攻撃的性格や他者からの敵意を抱かれるスコアが低いことを示した。
さらに、社会的に拒絶される状況に置かれるような実験条件(被験者が意図的に拒絶感を導くような経験を提示し、それからこれにどのように対処するかを観察した)では、マインドフルネス訓練を受けた人は受けなかった人よりも攻撃性の低い行動を見せた。
マインドフルネスの実践が、怒り、暴力、攻撃的な態度などの緩和に一定の効果をもたらしていることがわかると思います。
②集中力の向上
瞑想やマインドフルネスの効果として、次に挙げておきたいのは、「集中力の向上」です。
集中力が上がれば、学業、スポーツ、仕事のパフォーマンスも良くなることが期待できます。
Google が職員研修にマインドフルネスを取り入れたことは良く知られていますが、世界のエリートが貴重な時間を割いて瞑想に取り組む理由はここにあります。
「注意の実行機能」向上効果に関する研究
ペンシルバニア大学の認知心理学者、アミシ・ジャ(Amishi Jha)は、マインドフルネスの瞑想経験者と非経験者を、前もってコンピューターによって作られたANTを用いて比較した。
平均で10年瞑想を実践している瞑想経験者は、非経験者に比べて、実行機能も注意を払う「準備」の面でも、能力が非常に優れていた。
実行機能の差異は3カ月の瞑想リトリートに参加する前から存在していたのに対し、「準備」の違いはリトリートの後にのみ出現した。
非瞑想者が瞑想を教わった場合には、実行機能も定位機能も向上したが、対照群に対して優位だったのは定位機能のみであった。
少しわかりにくいかもしれません。
「実行機能」というのは、注意をそらすような情報があっても何かに注意を向け続ける能力のこと。
たとえば、本を読んでいるときに、テレビや家族の妨害など、じゃまが入っても読書に集中していられる能力ということです。
ANT(Attentional Network Task)というコンピューターの実験装置を使って調べたところ、長年瞑想をしている人は、そうでない人に比べて、この実行機能が優れていたというわけです。
さらに、文中に「準備」と書いてあるのは、「注意の準備機能」、つまり突然の外部からの刺激に対してどれだけ準備できているかということです。
突然野球ボールが飛んできたときに、とっさに避けることができる能力ですね。
瞑想実践者は、そうでない人に比べて、この能力も高かった。
さらに、3か月の瞑想リトリート(瞑想合宿)に参加することで、この準備機能を高めることができたというわけですから、驚きです。
オレゴン大学の研究者たちによるintegrative body-mind training(IBMT)とよばれるプログラムでマインドフルネスの瞑想を教えられた大学生を対象にした研究では、
1日20分の瞑想実践を5日間行っただけで、実践しなかった学生に比べて実行機能における優位な改善がみられた(定位機能と喚起機能はこの通りではなかった)と明らかにした。
こちらの報告でも、同様に、実行機能、つまり集中力の向上が確認されています。
ADHDの症状改善に関する研究
マインドフルネスとADHDの関係についても、報告があります。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは、
✅集中力がない(不注意)
✅じっとしていられない(多動性)
✅思いつくと行動してしまう(衝動性)
を特徴とする行動障害です。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のパイロット研究では、精神科医院のリディア・ジロウスカ(Lidia Zylowska)と私で、 ADHD 治療プログラムを補うものとしてのマインドフルネスの役割を調査した。
その結果、 ADHD をもつ大人や10代の子どもがそのプログラムに好感をもち、プログラムに従い(78%が完遂した)、実行機能の改善を示した。
フィージビリティ・スタディ(実現可能性調査)であったため対照群は設けておらず、 ADHD に対するマインドフルネスの効果の大きさは明らかにされていない。
別の ADHD の子どもとその家族を対象にしたオーストラリアの研究者たちによる非対照研究では、6週間の瞑想プログラムが ADHD の症状を減少させ、家族と子どもの関係性を改善させた。
このように、マインドフルネスが ADHDの症状に効果があることが一部では明らかになっています。
他の研究に比べてまだ報告が少ないですが、今後、調査の進展が期待されるところです。
③身体的痛みの緩和
マインドフルネスは、なんとカラダの痛みにも効果があることがわかっています。
さまざまな病気や損傷により、多くの人が、腰痛、関節痛、頭痛などの慢性的な痛み(慢性疼痛)を抱えています。
先に紹介したマインドフルネスストレス低減法(MBSR)の8週間プログラムは、もともと、慢性疼痛に悩む患者のために医療現場に持ち込まれたものです。
カバットジンと同僚による最新の研究では、対照群のサンプルを継続的に追っているペインクリニックからデータを集め、伝統的な痛みへの治療を受ける前であるか、後であるかを査定した。
この研究では、90人の慢性疼痛患者が MBSRコースを受け、痛み、ボディ・イメージ、症状の度合、鎮痛剤の使用、心理的ストレスに関して対称群と比較された。
MBSR の参加者は、対照群と比べ、痛みがより軽減し、身体活動における困難さがより減少していた。
また症状が軽減し、気分やボディ・イメージの改善が見られた。
この効果は、15カ月後の追跡調査においてもなお示された。
アリゾナ州立大学において行われた研究では、144人のリウマチ患者が、認知行動療法、マインドフルネス、そして心理教育グループの3つの治療群に無作為に振り分けられ、痛みの程度および神経学的な痛み反応の指標を比較した。
その結果、すべての群において痛みや気分の改善、痛みへの対処能力の向上がみられた。
マインドフルネス群はその他の治療群よりわずかながら抑うつを併発している患者への効果がみられたが、認知療法を受けたグループのみ、痛み反応を示す生物学的指標の低減が見られた。
このデータにより、マインドフルネスは痛みの低減という点で認知療法に匹敵する可能性があるが、抑うつが併発している場合のみ認知療法より優れていると言える。
これまでにも、MBSRによって、痛みの軽減が報告された例は数多くあります。
ただ、このプログラムは8週間、医療従事者が集中的に介入して行われるものです。
医者の心理的なサポートや、同じ境遇の患者どうしの支え合いなどによって、痛みの感じ方が変化することも大いに考えられるため、純粋にマインドフルネスの効果がどれくらいのものかは、計測するのが難しいと言われます。
その点、アリゾナ州立大学の報告は、従来の認知療法などと比較してマインドフルネスの効果を検証しているので、信憑性が高いと言えます。
おわりに
これだけエビデンスが出揃っているわけですから、瞑想やマインドフルネスは、心とカラダの悩みを解決する「万能薬」のようにも思えます。
ただ注意しておきたいのは、紹介されている研究の多くが、医療的な介入を前提としていること。
当然ですが、私たち一般人が、見よう見まねで瞑想を始めたところで、研究で報告されているような効果が得られるとは限りません。
医療的な介入なしに、自分の意思で瞑想を習慣化していくのは、簡単ではありません。
私自身も経験がありますが、やり方を間違えれば、瞑想によってかえってメンタルを悪化させることもあるので、注意が必要です。
それでも、カラダや心の問題解決のために、瞑想が必要だと感じたら、やはり一度は医療機関や専門家の指導を受けるべきだと思います。
ちなみに、このエントリで何度もご紹介したMBSR8週間プログラムは、本場であるアメリカのマサチューセッツ大学をはじめ、いくつかの大学や医療機関で、実際に受講できます。
最近では日本国内でも、東京マインドフルネスセンターやMBSR研究会などで受講できるので、興味のある方はぜひ検討してみてください。
参考になれば嬉しいです。
パオ