怒り・衝動に対処するマインドフルネスの手法「RAIN」とは?
怒りや衝動に流されそうになったときは、マインドフルネスの手法である「RAIN」のテクニックが有効です。科学でもその効果が実証済みのメンタルハック「RAIN」の4つのステップについて、具体的に解説します。
はじめに
上司にパワハラ発言をされた
部下が何度も同じミスをくりかえす
そんなとき、カッと「怒り」がわいてくること、ありますよね。
怒りは、ときに自分を守るために必要な感情ですが、場合によっては、必要以上に自分や他人を苦しめるやっかいな感情でもあります。
怒りに飲み込まれてしまうのも良くないですし、かといって無理に抑えようとしてもつらいだけです。
怒りの感情にうまく対処するには、マインドフルネスのアプローチが有効と言われています。
マインドフルネスとは、「今、この瞬間の体験に意識を向け、価値判断をせずに、ありのままに観察すること」。
瞑想やヨガなどを通じてトレーニングしますが、その効果は、科学的にも証明済みです。
このエントリでは、マインドフルネスの中でも、怒りや衝動が突発的にわいたときに特に有効な「RAIN」の手法についてご紹介します。
RAINとは、Recognition、Acceptance、Investigation、Non-identification の4つの頭文字を取ったもので、見ての通り、4つのステップからなるメンタルアプローチです。
全体像をざっくりまとめると、以下のようになります。
英語 |
和訳 |
意味 |
|
R |
Recognition |
認識 |
「あ、今自分怒っているな」と気づく |
A |
Acceptance |
受容 |
「人間だから、怒るのも無理ないな」と受け入れる |
I |
Investigation |
探索 |
怒りが、呼吸や心拍など、体の反応としてどのように現れているかを調べる |
N |
Non-identification |
非同一化 |
怒りを自分自身と切り離し、他人事のように距離をとってみる |
どういうことか、専門書を紐解きながら、解説していきます。
①Recognition:認識
まずは第1ステップ、「認識」です。
認識するとは、穏やかに感情を見つめ、「怖い」「怒っている」「悲しい」といったラベルづけをすることである。
(中略)
感情をラベリングすることは感情をコントロールする手段であり、前頭前皮質によって情動中枢を沈静化させることである。
自分の感情をラベルづけすることは、客観的に自分の感情を評価し、落ち着きを取り戻すことに役に立つのである。
引用元:『マインドフルネスのすべて-「今この瞬間」への気づき』Susan L. Smalley、Diana Wiston著、丸善出版、2016年。以下同じ。
簡単に言えば、
「あ、今、自分、怒っているな」と気づくことです。
怒っている人というのは、案外、自分が怒っているという事実にあまり自覚的でなかったりします。
怒りを客観的に認識すると、その時点で、怒りがいくぶんおさまったりすることもあります。
これが、RAINの最初のステップとなります。
なお、怒りに限らず、そのときの感情に応じて、そこに言葉を与え、ラベリングすることができます。
ラベリングは、正確で緻密な表現である必要はなく、「怒っている」「怖い」「悲しい」など、ざっくりした表現で問題ありません。
②Acceptance:受容
第2ステップは、「受容」です。
人間であるがゆえに多くの情動が駆け巡っている。恐れ、恐怖、喜び、嘆き、嫉妬、恥などその情動のリストに終わりはない。
誰もが殺意のある激情をうちに持っているのである。そう、恐ろしい殺意のあるような激情でさえも。
しかしマインドフルネスの考え方では、全ての情動はもってもよい。
それらは真実であり、本物であり、その瞬間に生じたものであり、人間の経験の一部だからである。
もちろん自分の情動を受け入れることをよしとすることは、その情動に基づいて行動してよいという意味ではなく、マインドフルにその情動が自分を通り過ぎて行くのを受容するのである。
上記は翻訳文のため、少しわかりにくいかもしれません。
簡単にいうと、「自分も人間なのだから、怒ってしまうのも無理ないよね」と、自分の怒りを受け入れることです。
よく「こんな些細なことで怒るなんて、自分はなんて未熟な人間なんだ。。」と、自らの感情を否定したり、自分を責めたりする人がいます。
ですが、マインドフルネスの実践では、自己否定したり、無理に感情を抑えつけたりせず、一度「受け入れる」という姿勢が重視されます。
私たちはみな不完全な人間ですから、怒りに限らず、恐怖、嘆き、嫉妬、恥、いろいろな感情を抱いてしまうものです。
「殺意」のような極端な感情でさえ、ときには抱くことだってあるかもしれません。
ただもちろん、どんな感情でも内心に抱くことは許されますが、それを行動に移してよいわけではありません。
③Investigation:探索
第3ステップは、「探索」です。
情動を探索することは体の中で感じ、どのように現れているかを発見するということである。
(中略)
生理的反応は情動的な感情経験と結びついている。湧き上がる情動と向き合う最も良い方法は、身体的感覚に目を向けることである。
感情にとらわれているとき、何に気づくだろうか。
胃で試してみよう。胃では緊張や収縮、重さ、燃えるような感覚などに気づくかもしれない。
胸ではどうだろう、鼓動や動き、緊張を感じるだろうか。
喉は縮こまり、詰まったりしてないだろうか。
自分が怒りを感じているとき、それは、必ずどこかに身体的反応を生み出しています。
少し呼吸や脈拍が速くなったり、息がつまるような感覚があったりします。
今、この瞬間に、どのような身体的反応が起こり、そして変化しているのか。
それを探り、調べていくのがこの「探索」のステップです。
1点だけ、注意すべきポイントがあります。
「探索」といっても、「自分はどうして怒っているのか」「何が原因だったのか」などと考えるということではありません。
過去にさかのぼって思考するのではなく、あくまで、今この瞬間に、この身体で何が起こっているのかを調べること、これがマインドフルなアプローチとなります。
④Non-Identification:非同一化
第4のステップは、「非同一化」です。
非同一化は感情を個人的なものと捉えるのではなく、感情から距離をとるものである。
(中略)
非同一化でいることにより、自分を苦しめる感情自体から離れて、自分を通り過ぎていくような感情として捉えるところへ到達できる。
非同一化というのは感情を持たないゾンビになるということではない。
負の感情から自分を分離しながら常に幸せでいるということでもない。
感情から少し距離をとり、感情を見極め、感情を個人的なものと捉えるのではなく、移りゆく性質を見るかのような態度を取ることが非同一化である。
簡単にいうと、感情と自分自身を切り離し、他人事のようにとらえるということです。
どんな感情が生じたとしても、それは時間とともに必ず変化し、やがては去っていきます。
自分でコントロールすることもできないですから、もはや「自分のものではない」という見方もできます。
ですから、他人事のように、ただ傍観していれば良いのです。
おわりに
英語 |
和訳 |
意味 |
|
R |
Recognition |
認識 |
「あ、今自分怒っているな」と気づく |
A |
Acceptance |
受容 |
「人間だから、怒るのも無理ないな」と受け入れる |
I |
Investigation |
探索 |
怒りが、呼吸や心拍など、体の反応としてどのように現れているかを調べる |
N |
Non-identification |
非同一化 |
怒りを自分自身と切り離し、他人事のように距離をとってみる |
以上、RAINの4つのステップをご紹介しました。
主に「怒り」の対処の方法として解説しましたが、RAINは、怒り以外のさまざまな衝動や欲望にも応用が効くとされています。
例えば、甘いものを食べたいとか、タバコを吸いたいといった衝動(クレーヴィング)に対しても有効です。
RAINを活用することで、禁煙の成功率が2倍に上がったという研究もあるそうです*1
RAINは、心がけ次第で、誰でも日常生活に簡単に取り入れることがでるので、おすすめです。
参考になれば嬉しいです。
パオ
*1:p.166『世界のエリートがやっている最高の休息法』久賀谷亮著、ダイヤモンド社、2016年