MBSRプログラム参加レポート①ボディスキャン
マインドフルネスストレス低減法(MBSR)8週間プログラムの参加レポート。第1弾は、「ボディスキャン」編です。ボディスキャンのやり方から、取り組む上での心構えや感想などをシェアします。
はじめに
MBSRプログラムが行われる関西医大病院の外観(筆者撮影)
瞑想というと、一昔前までは「怪しい」イメージがついて回っていました。
しかし、瞑想にはメンタルに良い効果があることが科学的にも明らかになり、最近ではずいぶんカジュアルなものになりました。
瞑想がストレス低減に効果があるという研究は数多く報告されていますが、その多くは、
マインドフルネスストレス低減法(MBSR)と呼ばれるプログラムに関するものです。
マインドフルネスストレス低減法(MBSR:Mindfulness-Based Stress Reduction)とは、マサチューセッツ大学のジョン・カバットジン博士が開発した、瞑想やヨガを中心とする8週間のプログラムのこと。
もともとは、慢性的な痛みを抱える患者のために開発されたものですが、
しだいに、ストレス反応、抑うつ症状、怒り、ADHDの症状などさまざまなメンタル問題にも効果があることがわかり、今では世界のいくつかの大学や医療機関で実施されるまでになりました。
瞑想の効果について詳細はこちらをご参照ください。
当ブログでは、大阪にある MBSR研究会 というところで、実際にこのプログラムに参加した私が、そこで学んだことや感じたことをレポートしていきます。
このエントリでは、第1弾として、「ボディスキャン」を取り上げます。
ボディスキャンのやり方や、行う際の心構えなどを、私の経験を踏まえながら紹介していきます。
ボディスキャンとは?
ボディスキャンは、カラダの感覚に注意を向けるエクササイズです。
ジョンカバットジン博士の『マインドフルネスストレス低減法』によると、以下のように説明されています。
「ボディー・スキャンとは、自分が注意を集中している体の一部が感じている本当の感覚を感じとり、 その場所に、あるいはその中に自分の意識を止めようとする方法です。
それぞれの場所で数回呼吸し、次の場所に注意を移すときには、前のことは心から消し去ります。
一つひとつの場所で感じ取った感覚、そしてその感覚に関連して生じてきた思いや内的なイメージをとき放ち、消し去ることによって、そこの筋肉にたまっていた緊張感が解放されます。
引用元:p.118『マインドフルネスストレス低減法』J.カバットジン著、北大路書房、2007年
このエクササイズによって、注意を集中する能力や、体の感覚への感受性を高めることができます。
私たちは、自分の体について考えるとき、「太っている」「老けて見える」「醜い」など、ついつい固定観念によって価値判断をしてしまいがちです。
しかしこれらの価値判断は、自分が頭の中で勝手に作り上げた「思考」「イメージ」であって、現実に体の中で起きていることではありません。
ボディスキャンでは、頭の中にある思考や妄想をそっと手放し、現実に自分が感じていること(例えば、皮フのかゆみ、筋肉の張り・痛みなど)をありのままに観察していきます。
これをくりかえすことにより、思考や妄想にとらわれない心の状態を作り上げていくのです。
MBSRにおけるボディスキャンの位置付け
ボディスキャンは、MBSRの中では最も重要視されるエクササイズのひとつです。
MBSRのプログラムは8週間からなり、週1回2時間半程度のクラス参加と、毎日1〜2時間の自宅実践が求められます。
ボディスキャンは、プログラムの前半、特に第1〜2週目に集中的に行われるエクササイズです。
第1〜2週目は、毎日、家で50分程度の時間、オーディオを聞きながらボディスキャンを実践します。
MBSRを「家を建てるプロセス」に例えると、最初に行うボディスキャンは、まさに「家の基礎をつくる」部分にあたるとの説明がありました。
多くの参加者は、この期間のボディスキャンの実践を全体の中で最も難しいと感じるのだそうです。
私も実際に体験してみて、数あるエクササイズの中でもボディスキャンが最も苦しかったと思いました。
まさに、最初にして最大の山場です。
ボディスキャンの手順
ボディスキャンの手順を、簡単に解説します。
1.まず、あおむけになって、目を閉じ、注意を体のさまざまな部分へ移動させてください。
※あおむけになると、眠くなってしまうなど不都合がある場合は、椅子に座った状態でも問題ありません。
※目を閉じると眠ってしまいそうなときは、目を軽く開けたままでも大丈夫です。
2.最初は、左足の先から始めて、ゆっくりと足の付け根の方へ注意を移動させます。移動するにつれて生じてくる感覚を感じとりながら、呼吸にも注意を向けます。
3.骨盤に達したら、右足の先に注意を戻し、同じように足の付け根の方へ注意を移動させます。
4.その次は、 骨盤から上に向かって胴体全体、つまり腰と腹部、背中と胸、肩へと移動させます。
5.次は、両手の指先に注意を集中し、左右同時に腕から肩に移動させ、首、のど、それから顔のすべての部分、後頭部、そして頭のてっぺんに注意を集中します。
6. 頭のてっぺんにくじらの噴水孔のような穴があいていて、そこから呼吸しているというイメージを作ってください。頭のてっぺんから入ってきた空気は、体全体を通って足の先から出てゆき、今度は足の先から入った空気が頭のてっぺんから出て行く、一方の端からもう一方の端へ、身体全体で呼吸しているというつもりになってください。
7. ボディー・スキャンを終えたら、その体全体が一つになったような感覚の中で、しばらくのあいだ、静かにじっとしていてください。そのあとで、もう一度、体全体が一つになったような感覚に意識を戻します。 そして、 その感覚がまだ続いていることを確認したら、今度は意識的に手と足先を動かし、手で顔を左右に揺り動かしながらマッサージをします。ここで目を開け、通常の活動に戻ります。
引用元(抜粋):pp.119-120『マインドフルネスストレス低減法』J.カバットジン著、北大路書房、2007年
ボディスキャンを行う際の心構え
①成果を期待しない
これはボディスキャンに限らず、マインドフルネスのエクササイズ全般に言えることです。
瞑想で何らかの成果を上げたいと思うなら、何かを得ようと期待するのではなく、瞑想すること自体を目的として励むのが最良の方法なのです。
引用元:p.135『マインドフルネスストレス低減法』J.カバットジン著、北大路書房、2007年
このエクササイズには効果があることがわかっているわけですから、それを期待してしまうのは無理もないことです。
ただ、期待をすると、思うような成果が得られなかったときに、「失望」が生まれます。
失望はかえってメンタルを悪化させる原因にもなりかねません。
将来得られる効果についてはとりあえず脇に置いておいて、今この瞬間、生じている体の感覚に注意を向けていくことが大切です。
②「正しいボディスキャン」は存在しない
「正しいボディスキャン」というのは、存在しないと考えた方が良いそうです。
もちろん、上記の手順に従う必要はありますが、その過程で、感じる感覚というのはさまざまです。
人によって、その時の体や心の状態、また周囲の環境や時間帯によって、感じ方は大きく変わります。
ですから、その感じ方に、正しい/間違っている という判断を下す必要はありません。
今感じているその感覚が、自分のありのままの感覚です。
また、体の感覚を全く感じられないこともあります。
左足の先の感覚を感じろと言われても、痛みも、かゆみも、張りも、何も感じない。。
それはそれで、「何も感じない」という感じを受け止めれば良いのです。
無理に体を動かして、感覚を作り出す必要はありません。
③忍耐強く続ける
ボディスキャンは、最初のうちはなかなかうまくできません。
注意を一点に集中しようと思っても、知らない間に、意識はさまよいはじめます。
過去のことに思いをはせたり、ボディスキャンが終わったら片付けなければいけない用事のことを考えたりしてしまいます。
嫌になって途中でやめたい衝動にかられたり、あるいは意識が遠のいて眠ってしまうこともあります。
そして、ボディスキャンの時間が終わったとき、うまくできなかった自分への失望や苛立ちが募ることもあります。
ただそこは、あまり深く考えず、いつも初めてボディスキャンに取り組むような気持ちで、淡々と継続します。
カバットジン博士も、MBSRに求められる態度の一つとして「忍耐強さ」を挙げています。
自分の心や身体に対する忍耐力が必要なのです。
心の中でいつも評価を下している自分に気づいたからといって、あるいは自分が緊張したり、動揺したり、恐れをいだいているからといって、 あせらないようにしてください。
ひたすらトレーニングを続けているのに何の効果も現れないからといって、やきもきしてはいけません。
そういうときは、自分に、そういう体験をする余裕を与えてあげてください。
引用元:p.59『マインドフルネスストレス低減法』J.カバットジン著、北大路書房、2007年
おわりに
ボディスキャンに興味をもたれた方は、上記の手順のもとで、短い時間でも良いので試してみると良いかと思います。
ただ、本格的に実践したい場合は、やはりMBSRのプログラムの中で、しっかりとした専門家の指導を受けることをおすすめします。
MBSRは、もともとカバットジン博士のいるマサチューセッツ大学のメディカルスクールで始まったものですが、現在アメリカではいくつかの大学で学ぶことができます。
また近年は日本でも、東京マインドフルネスセンターと大阪のMBSR研究会で、同様のプログラムを受けることができます。
どちらも医師やMBSR有資格者など、信頼できる指導者(ファシリテーター)から指導を受けることができるので、おすすめです。
参考になれば嬉しいです。
- 作者: ジョン・カバットジン,Jon Kabat‐Zinn,春木豊
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パオ