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「マインドフルネス」の意味・定義は?仏教と心理学の視点から検証!

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f:id:pao-elephant:20190930124222p:plainわかったようでわからない「マインドフルネス」の意味定義を解説!仏教と心理学の視点を踏まえ、その言葉の成り立ちをたどることで、マインドフルネスについてより深い理解ができます。

 

 

 

 

 

はじめに

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最近、ビジネスシーンでも耳にすることが増えた「マインドフルネス」ということば。

 


✅ストレスが減る
✅集中力が上がる
✅睡眠の質が上がる

 

 

などの効果があることから、瞑想やヨガを通じて、マインドフルネスを実践する人も増えてきました。

 

 

でも、そもそも「マインドフルネス」って、何でしょうか?

 

 

なんとなくはイメージできても、その正確な意味や定義を答えられる人は少ないと思います。

 

 

関係機関による定義をみてみましょう。

 

 

東京マインドフルネスセンターによる定義

「意識的に現在の瞬間に、そして瞬間瞬間に展開する体験に判断を加えず注意を払うこと」

 

 

これで、理解できたでしょうか?

 

 

わかったような、わからないような。。

 

 

「マインドフルネス」ということばの背景には、一言では説明できない複雑な経緯があります。

 

 

このことばの成り立ちを見ていくことで、理解をより深めることができます。

 

 

以下、見ていきましょう。

 

 

 

英語の一般的意味

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まずはシンプルに、英語の一般的な意味について見ていきます。

 

 

マインドフルネス(Mindfulness)ということばは、マインドフル(Mindful)の名詞形です。

 


英和辞典(英辞郎ontheweb)で "Mindful" の意味を調べると、以下のようになります。

 

 

1.(人が周囲のことなどに)気を配る、意識している
2.《be ~》~を覚えている、~を心に留める

 

 

例えば、"Be mindful of safe driving"

 

 

といえば、「安全運転を心がけましょう」という意味になります。

 

 

もともと英語の "Mindful" には、「心がける」「十分に注意を払う」くらいの意味しかなかったのです。

 

 

先に紹介した、日本マインドフルネス学会などの定義とは、ずいぶん印象が違いますね。

 

 

事実、瞑想実践や学術的な文脈で使われる「マインドフルネス」は、もともと英語にあった "Mindful" から派生したものではありません。

 

 

伝統的な仏教の世界にあったことばを、英語圏に輸入する際に、"Mindfulness" という訳語をあてたのです。

 

 

ですから、マインドフルネスを意味を理解するには、仏教の概念がどのようにして英語圏に取り入れられたのか、そのプロセスをみていく必要があります。

 

 

仏教学的意味

①「サティ」と「正念」

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マインドフルネスという英単語自体は、およそ700年の歴史を持つが、その意味についての大きな変化が生じたのは19世紀末である。

 

1881年、夫婦共に著名なパーリ語(中期インドのアーリア系言語で、原始仏教の経典で使われている言葉)の研究者であった Rhys Davids(1881)が、 『東洋の聖書』の第6巻として、 “Buddhist Suttas” を出版した際、パーリ語の「サティ」の英訳語として、マインドフルネスを当てた。

 

これは、漢語では 「念」「憶念」とも訳される。

 

その意味は、「心をとどめておくこと、あるいは心にとどめおかれた状態としての記憶、心にとどめおいたことを呼びさます想起のはたらき、心にとどめおかせるはたらきとしての注意力」とされる。

引用元:p.132『マインドフルネス-基礎と実践-』貝谷久宣、熊野宏昭、越川房子編著、日本評論社、2016年

 

 

 

つまり、「サティ」の「心をとどめておく」や「注意」などの意味が、英語の Mindful と近かったために、訳語としてあてられたわけです。

 

 

さて、この「サティ」というのは、仏教の八正道に見られるものです。

 

 

八正道とは、仏教において、その最終目標である悟りに至るための8つの実践項目のことで、その7番目に「正念」が置かれています。

 

 

正念とは、「正しい意識をもち、理想目的を常に忘れないこと」*1

 

 

仏教における目的は「悟り」なので、正念は、修行の妨げになるような邪心や雑念から離れて、「悟り」に向かう意識を常に保つようにしましょうという意味になります。

 

 

 

②「四念処」

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ただ、今日の「マインドフルネス」が、「悟りに向かう意識」のような意味で使われているわけではありません。

 

 

20世紀に入ってから、もう少し複雑な経緯をたどって、今に至っています。

 

 

「マインドフルネス」という言葉で呼ばれるようになった仏教瞑想が普及したのは、テーラワーダ仏教の僧であった Nyanaponika Thera(1901-1994)が、1954年に『仏教瞑想の核心ーマインドフルネスに基づく精神修養』と題する書籍を出版したことが直接の契機になっているという。

 

この書物は、仏教瞑想の中核にマインドフルネスを位置づけているが、その解説の中で、マインドフルネス」とは正念そのものではなく、「最小限のありのままの注意」(bare attention)であり、まったく神秘的なものでないと断っている。

 

これ以降、西洋では、マインドフルネスを「ありのままの注意」とする味方がひろがり、仏教瞑想に関する多くの著作のなかで、仏教瞑想の本質は、この意味でのマインドフルネスとされるようになっていった。

引用元:p.133『マインドフルネス-基礎と実践-』貝谷久宣、熊野宏昭、越川房子編著、日本評論社、2016年

 

 

サティ(正念)には、仏教の最終目標である「悟り」が含意されています。

 

 

Nyanaponika という僧侶がマインドフルネスを、「悟り」といった宗教的な要素を含まないものとして再定義した結果、西洋により受け入れられやすいものになったのでしょう。

 

 

さらに Nyanaponika は、"何に" 注意を向けるのか、気づきの対象についても明確に定義しました。

 

 

気づきの対象は、「瞬間瞬間において、私たちに対して、また私たちの中で、実際に起こっていること」です。

 

 

これは、『念処経』という経典にある四念処と呼ばれる概念を解釈したものだと言われています。

 

 

四念処とは、身、受、心、法の4つの観察対象に注意を向けるということ。

 

 

簡単にまとめると、以下の通りです。

 

 

 

意味

英語

パーリ語

身念処

呼吸、姿勢、動作、身体の部位などに注意を向ける

mindfulness of the body

カーヤ

受念処

快、不快など感覚的な刺激に対して注意を向ける

mindfulness of feelings

ヴェーダナー

心念処

集中、散漫、怠惰など意識状態に注意を向ける

mindfulness of consciousness

チッタ

法念処

自然の摂理に注意を向ける

mindfulness of mental objects

ダンマ

参考:pp.134-138『マインドフルネス-基礎と実践-』貝谷久宣、熊野宏昭、越川房子編著、日本評論社、2016年

 

 

Nyanaponika は、身、受、心、法の4つの観察対象をまとめて「私たちの内外で実際に起こっているあらゆるものごと」とし、マインドフルネスを再定義したと言えるでしょう。

 

 

心理学的意味

①マインドフルネスストレス低減法(MBSR)

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マインドフルネスを語る上で、避けては通れないのが、マサチューセッツ大学のジョン・カバットジン博士です。

 

 

「意識的に現在の瞬間に、そして瞬間瞬間に展開する体験に判断を加えず注意を払うこと」

 

 

この今日的な意味でのマインドフルネスを、世に広めた張本人とも言える人物です。

 

 

彼は1979年、慢性疼痛(慢性的なカラダの痛み)を抱える患者のために、マインドフルネスストレス低減法(Mindfulness-based stress reduction)という8週間のプログラムを開発しました。

 

 

その後、このプログラムの効果が科学的にも裏付けられました。

 

 

マインドフルネスが仏教の文脈を離れて、近代的な医学や心理学の文脈で用いられるようになり、宗教的背景を問わず誰でもその恩恵を受けられるものとして、世界的に知れ渡るようになりました。

 

 

 

②心理学における概念化(MAAS、FFMQ)

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心理学の分野においては、「マインドフルネス」という概念について細かい分析がなされ、その構成要素は、マインドフルネスを測定する尺度として結実しています。

 

 

「あなたはどの程度マインドフルであるか」を測るものさしとして代表的なのが、MAAS(Mindful Attention Awareness Scale)と、FFMQ(Five Facet Mindfulness Questionnaire)の2つです。

 

 

どちらも、自己回答形式のアンケートのようなものです。

 

 

MAAS は15の質問から成りますが、そのいずれも、「今現在の自分の状態に注意を払っているか」を問うものです。

 

 

ですからMAASは、「注意力」という1つの因子でマインドフルネスを測定するので、単一因子尺度といえます。

 

 

これに対して、FFMQは、

 

 

①自分の体験に注意を向けているか
②現在の行動に注意を向けているか
③自分の体験に批判的、評価的に接していないか
④自分の体験を適切な言葉で表現できているか
⑤自分の感情に過剰に反応しないでそのまま受け止めているか

参考:pp.98-100『マインドフルネス-基礎と実践-』貝谷久宣、熊野宏昭、越川房子編著、日本評論社、2016年

 

 

5つの因子をもつ39の質問から成り立っています。

 

 

注意力のほかにも、判断、評価、表現など別の要素が加えられています。

 

 

マインドフルネスをさまざまな角度から多元的に捉えており、より包括的な尺度といえます。

 

 

現在、FFMQは世界中の研究者によって広く用いられており、マインドフルネス測定の一つの到達点といえます。

 

 

MAASとFFMQの詳細については、別エントリに詳しくまとめましたので、あわせてご参照ください。

 

  

 

おわりに

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以上、マインドフルネスの定義と、ことばの成り立ちについて解説しました。

 

 

マインドフルネスということばが、現在の意味で用いられるようになるまで、複雑な経緯をたどっていることがわかります。

 

 

この経緯をふまえることで、マインドフルネスの理解がより深まることと思います。

 

 

参考になれば嬉しいです。

 

 

パオ

*1:p.203『仏教要語の基礎知識』水野弘元著、春秋社、1972年