ヴィパッサナー瞑想の指導、受けてきました!
日本テーラワーダ仏教協会の瞑想会に参加し、ヴィパッサナー瞑想の指導を実際に受けてきました。マインドフルネスの元になったともいわれる伝統的な瞑想法、実際どんなものだったのか、詳しくレポートしたいと思います。
はじめに
去る3月17日(日)、日本テーラワーダ仏教協会の瞑想会に参加してきました。
同協会のマーヤーデーヴィー精舎(兵庫県三田市)で行われた「関西月例冥想会」です。
こちらがマーヤーデーヴィー精舎の外観。
同協会の瞑想会では、スマナサーラ長老から直接瞑想指導を受けることができます。
スマナサーラ長老。
仏教や瞑想に興味のある方なら、一度はその名を聞いたことがあるかもしれません。
スリランカ出身のお坊さんで、30年近くの間、日本で仏教講演や瞑想指導を精力的に続けておられる方です。
ただ、当日の瞑想会は急きょスマナサーラ長老に代わり、ヤサ長老による指導でした。
ヤサ長老は日本人ですが、スマナサーラ長老のもとで仏教を学ばれた方で、スリランカでの滞在歴も長く、最近では活躍の場を広げられているとのこと。
私は初めての参加だったので、初心者向けの瞑想指導を、長老から直接受けることができました。
初心者向けの瞑想指導は、参加者が15人程度で、13時30分から18時くらいまで続きました。
今回のエントリでは、ヤサ長老による瞑想指導に実際に参加してみて、重要だと思ったポイントを私なりにまとめてみました。
ヴィパッサナー瞑想とは?
ヴィパッサナー瞑想とは、テーラワーダ仏教(タイ、ミャンマー、スリランカなどの国々で信仰されている仏教)で伝統的に実践されてきた瞑想法のうちのひとつです。
ヴィパッサナー(Vipassana)とは、
ヴィ(vi)「はっきりと」
パサティ(passati)「観察する」
が組み合わさってできたことば。
「はっきりと観察する」
自分の身体や心に生じるさまざまな現象を、はっきりと、ありのままに観察する瞑想法です。
私たちの心は、いつも妄想にとらわれています。
過去に自分がしてしまったことについてくよくよ悩んだり、未来のことをあれこれ不安に思ったり、他人との関係でもやもや悩んだり。
仏教では、こうした悩みや不安は、現実のものではなく、心の中で勝手に湧いては消えていく妄想であると考えます。
瞑想中は、現実に生じている身体の感覚をたえず観察することで、心に妄想が入り込む隙間をなくしていきます。
これを長く続けることで、妄想にとらわれない心の状態を作り上げていきます。
5つの最重要ポイント
瞑想というと、ふつうは、「座って目を閉じてじっとする」瞑想を思い浮かべるかもしれません。
ただ、ヴィパッサナー瞑想には、座る瞑想のほかに、手を上げる瞑想、立つ瞑想、歩く瞑想など、さまざまな瞑想法があります。
ヤサ長老によると、ポイントさえおさえておけば、日常のいろいろな動作も、ヴィパッサナー瞑想にすることができるというのです。
ヴィパッサナー瞑想に取り組む上で、欠かすことのできない重要ポイントは、全部で5つあるといいます。
以下、5つの重要ポイントを紹介します。
1.姿勢
まずは、背筋をピンを伸ばすこと。
姿勢が悪いと、集中力が低下しやすくなります。
妄想や眠気が入り込む余地が生まれ、瞑想を続けるのが難しくなります。
2.感覚に寄り添う
身体の感覚を観察し続けます。
座る瞑想の場合は、呼吸にともなっておなかが膨らんだり縮んだりする様子を観察します。
手をあげる瞑想の場合は、手をゆっくりとあげるときに感じる、手の重みや肩に引っかかる感じ、指先の皮膚感覚などを観察します。
立つ瞑想や歩く瞑想の場合も、同じ要領で、動かしている部位の感覚を観察していきます。
3.実況中継
「実況中継」します。
声には出さずに、心の中で行います。
座る瞑想の場合は、呼吸にあわせて「吸います」「吐きます」、おなかの膨らみ・縮みに合わせて「膨らみます」「縮みます」などと実況中継します。
手をあげる瞑想、立つ瞑想、歩く瞑想の場合は、「(右手を)上げます」「(右足を)上げます」などのように、動作そのものを実況中継していきます。
4.ストップモーション
ストップモーションとは、身体を一切動かさないということです。
座る瞑想の場合、許されている動作は、息を吸って吐くことだけ。
それ以外は、微動だにしません。
眼球とか、口の中とか、指先とか、余計なところは一切動かさないようにします。
手を上げる瞑想、立つ瞑想、歩く瞑想の場合は、動かしている部位以外は、微動だにしないよう注意します。
5.スローモーション
スローモーションは、文字通り「ゆっくり動かす」ということ。
動作を伴う瞑想の場合、注意すべきポイントです。
手を上げる瞑想なら、手を意識的にゆっくりとしたスピードで上げ下げします。
歩く瞑想なら、ふだんのスピードよりもゆっくりと歩きます。
これは、身体の感覚をより観察しやすくするためです。
「病人なったつもりでゆっくりと」なんて表現されることもあるそうです。
手を上げる瞑想
手を上げる瞑想のポイント
・姿勢を正して座る
・目は開けておく
・目線は2メートル先の床の上
・右手を上げ、下ろす
・左手を上げ、下ろす
・右手→左手の動作を交互に
・手の動きは、ゆっくりと、一定のスピードで
・手以外の部分は、一切動かさない
・手を動かすことで生じる感覚を観察する
・「上げます」「上げます」「下げます」「下げます」と心の中で実況中継する
座り方は、あぐらでも正座でも良いそうですが、無理なく背筋を伸ばしていられるやり方が良いです。
ふつうは、座布団の上に腰を乗せてあぐらをかき、坐骨と両ヒザの3点で身体を支えるようにして座ります。
あとは、先にあげたヴィパッサナー瞑想を行う上での5つの重要ポイントを意識するだけです。
心に、眠気や妄想が入り込む余地をなくしていきます。
立つ瞑想
立つ瞑想のポイント
・姿勢を正して座る
・立ち上がるため、右手・左手を広げて床につけ身体を支える
・あぐらをほどき、右足を伸ばす
・左足も伸ばす
・立ち上がる
・右足・左足を肩幅に広げて身体を安定させる
・両手を前か後ろに組む
・背筋を伸ばす
・動作はすべてゆっくりと
・動作中は、動かしている身体の部位の感覚をずっと観察する
・実況中継のことばは「伸ばします」「立ちます」「広げます」など
立つ瞑想は、手を上げる瞑想に比べて、動作が少し複雑です。
重要なのは、身体の動きを、ひとつひとつのパーツに分解すること。
両手を同時に動かしたりせず、右手のときは右手を動かすことだけに集中し、観察し、実況中継します。
足を伸ばしたり広げたりするときも、右足、左足をそれぞれ別に動かし、それぞれ観察、実況中継します。
実況中継のことばは、特に正解があるわけではなく、動作を端的に表現することばであれば問題ないそうです。
とにかく5つの重要ポイントを意識しながら、妄想にとらわれない心の状態をつくっていきます。
歩く瞑想
歩く瞑想のポイント
・姿勢を正して立つ
・手は前か後ろで組んでおく
・目線は2メートル先の床を見つめる感じ
・右足→左足と順番に動かしゆっくり歩く
・壁にさしかかったら足を交互に回してゆっくりとUターンする
・足以外は一切動かさない
・足を動かすたびに、床から足が離れる感覚や床に着地する感覚を観察する
・実況中継のことばは、「上げます」「運びます」「下ろします」「回します」など
歩く瞑想も、手をあげる瞑想や立つ瞑想と要領は同じ。
とにかく、ヴィパッサナー瞑想の重要5ポイントを意識することが重要です。
そして複数の動作を同時にはおこなわず、右足、左足と交互に動かし、観察し、実況中継していくだけです。
ただ、歩く瞑想は、スピードを上げても良いそうです。
特に心が落ち着かないときや眠気が強いときは、少し速く歩くのが効果的なんだとか。
その際は、実況中継のことばは「右足」「左足」と簡略して良いそうです。
座る瞑想
座る瞑想。
これは、手をあげる瞑想、立つ瞑想、歩く瞑想とは異なり、動作のない瞑想、いわば「受動的な瞑想」になります。
座る瞑想のポイント
・姿勢を正して座る
・背骨をひとつひとつ重ねていくイメージで、「伸ばします」「伸ばします」と実況中継
・頭頂部から下へ下へと意識を下ろして「力、抜けます」「抜けます」と実況中継
・頭から背中にかけて鉄板を貼り付けるイメージを作る
・背筋を伸ばしたまま勢いよく背中を30度倒す
・目を閉じ、「閉じます」「閉じます」と実況中継
・背中をもとの位置に戻し「固定します」「固定します」と実況中継
・以降、完全なストップモーション状態に入り、身体は一切動かさない
・呼吸にあわせて動くおなかの膨らみ・縮みを観察し、「膨らみ」「縮み」と実況中継
・お腹の動きの観察を一通り終えたら、次は身体中の感覚、周囲の音、匂い、妄想など、あらゆるものを観察の対象としていく
座る瞑想は、シンプルなようで、実は最も難しいかもしれません。
基本的な要領は、先に紹介した瞑想と同じ。
ヴィパッサナー瞑想で留意すべき5つのポイント
①姿勢を正す
②感覚に寄り添う
③実況中継
④ストップモーション
⑤スローモーション
に従い、妄想にとらわれない心の状態をつくっていきます。
ただ、手をあげる瞑想、立つ瞑想、歩く瞑想など「能動瞑想」では、観察の対象は、動かしている身体の一部分のみであるのに対し、
座る瞑想(受動瞑想)では、観察の対象を、お腹から、体や心の全体に広げていきます。
わかりやすく表にすると、次のようになります。
能動/受動 |
瞑想の種類 |
観察の対象 |
能動瞑想 |
手をあげる瞑想 |
右手、左手 |
立つ瞑想 |
右手、左手、右足、左足 |
|
歩く瞑想 |
右足、左足 |
|
受動瞑想 |
座る瞑想 |
お腹の膨らみ、縮み ⬇︎ 五感全て、妄想 |
なお、座る瞑想については、以前スマナサーラ長老の本を参考にまとめたエントリがありますので、合わせてご覧いただければと思います。
瞑想を実践するにあたって
瞑想会では、ヤサ長老から、直接これだけの指導を受けることができました。
ヴィパッサナー瞑想だけでも、これだけの種類があり、はじめは手順を覚えるだけでも大変です。
さらに、これを毎日続けるとなると、一般人にはかなりハードルが高いかもしれません。
ヤサ長老は、1日あたりの瞑想実践として、以下の目安を提示されました。
1日あたり瞑想時間の目安
歩く瞑想: 1時間
立つ瞑想: 10分
座る瞑想: 45分
これを毎日です。
テーラワーダ仏教徒として瞑想実践に取り組もうと思ったら、最低でもこれくらいはやらないとダメだということです。
そして、それぞれの瞑想を、バランス良く取り入れることが大切。
自分の好みの瞑想ばかりやるというのは、あまり良くないそうです。
ただ、現代の多忙な日本人が、毎日これだけの時間を瞑想にあてるというのは、ふつうは難しいですよね。
その場合は、できる範囲で、バランス良く実践し、続けていくことが大切だとおっしゃっていました。
特に「歩く瞑想」については、通勤などでふだん歩いている道で、瞑想をやってしまうという手がありますね(もちろん環境が整っていることが前提ですが)。
おわりに
ヴィパッサナー瞑想は、ブッダが悟りを開いた瞑想といわれます。
「悟り」というと、何か超越的で神秘的なものを想像するかもしれませんが、このように実際に勉強してみると、きわめて現実的なメソッドであることがわかります。
実際、だまされたと思ってやってみると、すぐにわかります。
身体の感覚をよく観察し、心の中で実況中継している間は、本当に妄想は消えます。
感覚をしっかりと観察しながら、同時に妄想することは、むしろ不可能であることがわかります。
あとは、これを無理ない範囲で、習慣化していけば良いのかなと思います。
ヤサ長老の瞑想指導をもとに、ヴィパッサナー瞑想のポイントを私なりにまとめてみました。
ただ、しっかりと瞑想に取り組みたいと思う場合には、やはり一度スマナサーラ長老の本を読み、より正確な情報を頭に入れることが必要だと思います。
ヴィパッサナー瞑想のやり方を参照するなら、おすすめしたいのがこちらの1冊。
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瞑想の基本的な考え方や、手順、注意すべきポイントなどが、ひととおり網羅されています。
私も繰り返し読んでおり、手放せない1冊となっています。
慈悲の瞑想や食べる瞑想などについても、詳しく解説されています。
あとは、実際に瞑想会に参加し、専門家の指導を受けてみること、これが一番だと思います。
日本テーラワーダ仏教協会の瞑想会は、初心者に対しても、長老はひとりひとりと向き合ってていねいに指導してくださるので、自信をもっておすすめしたいと思います。
関連して、瞑想会の全体的な感想や長老のお話についても、こちらのエントリにまとめてありますので、あわせてご覧いただけたら嬉しいです。
※なおこのエントリは、瞑想指導の内容を公式に伝えるものではありません。あくまでも一参加者である私が、自分の主観・解釈を交えたまとめです。参考程度にとどめていただければ幸いです。
パオ