スリランカの僧侶が説く、「怒りをしずめる方法」とは?
日本テーラワーダ仏教協会の瞑想会に参加した際、スリランカのお坊さんから「怒りをしずめる方法」についてのお話を伺いました。怒りは、最も厄介な感情のひとつです。怒りをうまく手放すためのポイントをまとめてみました。
はじめに
(マーヤーデーヴィー精舎外観)
去る3月17日(日)、日本テーラワーダ仏教協会の瞑想会に参加してきました。
同協会のマーヤーデーヴィー精舎(兵庫県三田市)で行われた「関西月例冥想会」です。
そのとき、スリランカのお坊さんのお話(法話)を聞く機会がありました。
テーマは、「怒りをしずめる方法」。
内容がとても興味深いものだったので、学んだことや思ったことを、私なりにまとめてみたいと思います。
なお、当日の瞑想会の全体的な感想については、こちらのエントリにまとめましたので、あわせてご覧いただけたら嬉しいです。
ヤサ長老とは?
スリランカといえば、スマナサーラ長老というとても有名なお坊さんがいます。
ここ30年くらい、日本で講演会や瞑想指導などを精力的に行なっている方で、この分野では知らない人はいないという方です。
書店の仏教コーナーにいくと、スマナサーラ長老の本がずらりと並んでいるので、目にしたことがあるという方も多いと思います。
瞑想会当日も、スマナサーラ長老による法話と瞑想指導が予定されていましたが、急遽、ヤサ長老に変更になりました。
ヤサ長老は、若手の僧侶。
日本人ですが、スマナサーラ長老のもとで出家された方です。
スリランカの瞑想センターでのご経験が長い方です。
怒りの7つのパターン
法話のテーマは、「怒り」について。
日常生活で、私たちはしらずしらずのうちに「怒り」を抱えています。
ヤサ長老は、自分の怒りをしずめるための方法があるのだといいます。
その方法とは、「自分の怒りのパターン」を知ること。
仏教では、怒りには7つのパターンがあり、自分の怒りがどのパターンに当てはまるのかを知ることで、それを鎮めることができると考えるそうです。
7つのパターンとは、以下の通りです。
1.他人の容貌(美貌)に対する嫉妬
仏教では、嫉妬も怒りの一種であると考えます。
「あの人はあんなに美人なのに、自分ときたら。。」みたいな思いですね。
2.他人に苦しみがあってほしいと願う心
これも怒りの一種。有名人やセレブが不祥事で転落した時に、思わず喜んでしまう心です。
3.他人の財産に対する嫉妬
「あいつはあんな立派な家に住んでいるのに、自分はこんな惨めな家に住んでる。。」みたいな気持ちです。
4.他人の幸福に対する嫉妬
「親しい友達が受験に成功した一方で、自分は失敗して落胆」みたいなときにおこる気持ちです。
5.他人の名声に対する嫉妬
近くにいた人が突然有名人になったりしたときにおこる嫉妬心です。
6.他人に友人がいることに対する嫉妬
友達はクリスマスパーティーに呼ばれたのに、自分は呼ばれなくてひとりぼっちみたいな感覚です。
7.他人が死後、地獄に落ちることを願う心
これはすごいですね。
日本人の場合は、死後の世界をありありとイメージすることは少ないかもしれません。
でも、他人を呪ってしまう気持ちは、だれでも持ちうるものかもしれません。
ふつう、「怒り」というと、人から嫌なことを言われたりして、カッとなって怒る時の「怒り」をイメージします。
でも、仏教は、「怒り」の意味を、もっと広い射程でとらえていることがわかります。
日常生活の中で、平静を装っていても、しらずしらずのうちに自分の中に抱え込んでいる「怒り」。
その怒りの正体が、先の7つのどれに当てはまるのかを知り、気づくこと。
それが、「怒り」を手放すきっかけになるということです。
怒りをしずめるための10の方法
怒りのパターンを知ったら、つぎは、それをしずめる方法です。
ヤサ長老は、怒りをしずめるための方法を、10個紹介されました。
1.気に入らない人と尊敬する人を交互に思い浮かべる
気に入らない人に対して怒りがわいたら、その人の代わりに、自分が尊敬する人を意図的に思い浮かべてみるんだそうです。
尊敬する人は、できれば自分と同性の人が良いそうです。
2.怒りに対して怒りで応えたら、自分がより損をする
「怒らないことによって、怒りに打ち勝て」というのは、ダンマパダ(法句経)というお経の中にあることばです。
仏教では、怒りに対して怒りで応えたら、自分の中に怒りの炎がさらにメラメラと燃え、結局自分が損をするのだと考えます。
3.気に入らない人の中にも、良いところを見つける
仏教では、人間の活動は、からだ、ことば、こころの3つから成ると考えます。
気に入らない人でも、よく見ると、からだ、ことば、こころのうち1つくらいは良いところがあるかもしれません。
良いところを見つけたら、そこにフォーカスしていけばいいのです。
4.怒らないように自分に言い聞かせる
例えば身体をぶたれたようなことがあったとしても、「心までぶたれた」とは考えず、怒らないように自分に言い聞かせるのだそうです。
5.相手が怒れば相手の業、自分が怒れば自分の業
自分が怒れば、それは相手の問題ではなく、自分の問題だと認識する。
怒りの根は、相手にあるのではなく、自分にあると認識します。
それが怒りをしずめるための気づきになります。
6.お釈迦様の前世説話「ジャータカ物語」を思い出す
お釈迦様の前世についての説話「ジャータカ物語」の中には、
「盗賊に手足を切られそうになっても、怒らなかった」という話があります。
この話を思い出し、上司に怒鳴られたくらい、何でもないと思えたら良いですね。
7.この嫌な人も、前世では血縁関係にあったかもしれないと思う
気に入らない人、嫌いな人も、もしかしたら前世では、自分の幸せを願う父か母であったかもしれません。
これは、だから輪廻転生を信じろということではなくて、仮にでもそういう気持ちになれれば、怒りをしずめることができるかもしれないという、いわばメンタルハックです。
8.怒りを手放すことで得られるものを知る
怒りを手放すことで得られるものは、計り知れません。
夜の安眠、良い目覚め、悪夢の解消、集中力向上、容姿が良くなる、などなど、たくさんあると考えます。
9.今自分が怒っている相手に、実体はないということを知る
仏教では、人間の肉体は、32個のパーツから成り立っていると考えます。
脳、肺、汗、涙。。どれも「相手」そのものではないですね。
そう思えば、怒るのがバカらしく思えるかも知れません。
10.怒っている相手からプレゼントをもらうところを想像してみる
もし、怒っている相手から、プレゼントをもらったら、自分の感情はどのように変化するでしょうか?
もしそれで怒りがおさまるとしたら、自分の怒りは、取るに足りないものだったということですね。
おわりに
ヤサ長老のされたお話は、こんな感じでした。
このお話は、テーラワーダ仏教で長い間語り継がれている、お釈迦様の法話をもとにしています。
お釈迦様が生きたのは、古代インド、今から2500年も前の話です。
当時の人々の生活様式や、生命観・死生観は、現代日本人のそれとはかけ離れています。
そのため、先にあげた、怒りを対処するためのポイントの中には、そのまま適用できないものも多々含まれています。
自分でピンとこないポイントはスルーして、「これ、使えそうだな」と思うものだけ使えば良いそうです。
古代インドのメンタルハック、なかなか興味深いですね。
「怒り」は、私たちにとって最も厄介な感情の一つ。
これをうまく対処する方法を知らないと、なかなか心が安定せず、幸福度も上がりにくいです。
だまされたと思って使ったみたら、思わぬ効果があるかもしれませんね。
※なお、このエントリは、長老の法話の内容を公式に伝えるものではありません。あくまでも一参加者である私が、自分の主観・解釈を交えてまとめた感想になります。参考程度にとどめていただければ幸いです。
パオ