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実践!「セルフ・コンパッション」を鍛える方法

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いつも「自分はダメ人間」と自己否定してしまう方におすすめなのが、自分への思いやりを育む「セルフ・コンパッション」のテクニック。基本的な考え方や、1日5分から実践できる「セルフ・コンパッション」の鍛え方をご紹介します。

 

 

 

 

はじめに

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自分はダメ人間だ・・

 

 

無意識にそう思い込んでしまっている人は多いはず。

 

 

仕事で失敗をくりかえす自分を、「無能な人間」と決めつけてしまう。

 

 

異性にモテない、また恋愛関係を長く続けられない自分を、

 

 

「自分には人に愛される資格がない」と断定してしまう。

 

 

中には、人生がうまくいっている時ですら、

 

 

「こんな幸運、長く続くはずがない」なんて思ってしまう人もいます。

 

 

こうした思い込みや、過度な自己批判や自己否定は、人生の満足度を大きく下げる要因になります。

 

 

そんな人に役に立つのが、「セルフ・コンパッション(self-compassion)」という考え方です。

 

 

このエントリでは、「セルフ・コンパッションのやさしい実践ワークブック」(ティム・デズモンド著、星和書店、2018年)をもとに、セルフ・コンパッションの基本的な考え方や、それを日常生活で実践するためのテクニックを紹介していきます。

 

 

 

「セルフ・コンパッション」とは?

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同書の第1章、冒頭の文章を引用します。

 

 

セルフ・コンパッションは、「自分への思いやり」とも訳されて、言葉のとおり、自分自身を思いやることを指します。

 

うまくいっているときは、祝福して喜びます。苦しいときには、自分にやさしくして、広い心で接します。

 

 

人は、なんとたくさんの痛みを自ら生んでしまっているのでしょう。

 

自分を批判し、周りの人も批判します。

 

周りの人たちから切り離されたように感じて、みじめで孤独な気持ちになります。

 

実際にそんな出来事を経験したのかもしれません。物心ついたときからずっと不安で落ち込みがちだったのかもしれません。

 

人生はこんなはずではない、自分のおかしいところを直さないと愛されるわけがない、と信じているかもしれません。

 

 

しかし、実際は、今あるとおりの自分のままでよいのです。

 

何一つ変わらなくても、愛され、受け入れられ、認められていると感じられるものなのです。

 

 

体の内側から語りかけてくる、「自分は美しくて、たった一人のかけがえのない人間なのだ」という声に耳を傾け、そう思えるようになります。

引用元:『セルフ・コンパッションのやさしい実践ワークブック』ティム・デズモンド著、星和書店、2018年

 


テキサス大学のクリスティーン・ネフ博士は、セルフ・コンパッションには、以下の3つの要素があることを指摘しています*1

 

 

1つ目は、自分への優しさ(self-kindness)です。

 

 

これは、自分の至らなさや何らかの苦痛を感じている時に、厳しく自己批判するのではなく、自分に愛情を注ぎ、心優しく接することです。

 

 

2つ目は、人としての共通体験(common humanity)です。

 

 

これは、困難や弱みは自分だけが抱えている問題ではなく、人間である以上誰もが体験しうるものであるというふうに大きな視点でとらえることです。

 

 

人としての共通体験を意識することで、この苦しみはこの世の中で自分だけが感じているものではないということに気づきます。

 

 

3つ目は、マインドフルネス(mindfulness)です。

 

 

これは、ネガティブな感情を、無理に抑圧することも過度に強調することもなく、ありのままにとらえる態度です。

 

 

これにより、今おかれている状況や自分の感情を明確に理解し、その対処方法について冷静に考えることができます。

 


セルフ・コンパッションは、単なる気休めか、一部の怪しい宗教やスピリチュアルの類だと思う方もいるかもしれません。

 

 

でも実際は、科学的にも効果が認められた、メンタルを健全に保つための実践的なテクニックです。

 

 

 

「セルフ・コンパッション」にまつわる誤解

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「自分への思いやり」と訳されるセルフ・コンパッション。

 

 

自己にフォーカスしているだけに、「自尊心」や「わがまま」など一見似通った概念と混同されることがあります。

 

 

セルフ・コンパッションを正しく理解するために、これら類似の概念との違いを見ていきましょう。

 

 

「自尊心」との違い

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自尊心は、自分自身をプラスに判断または評価することです。

 

自分を好ましい人間と信じて、自分の強みをわかっているという状態を指します。

 

ところが、自分自身を好ましいと信じている人の多くが、自分はほかの人よりも優れていると信じているということが研究で明らかになっています。

 

 

自尊心を高くするために、ほかの人よりも優れていると信じなければならないとしたら、

 

(中略)ほかの人を批判しがちになり、ほかの人に自分の弱さを見られるのを恐れやすくなります。

 

 

一方、セルフ・コンパッションはどうでしょう。

 

自分を思いやるときに、周りのみんなよりも優れているか、劣っているか、同じかを考えません。

 

自分と付き合っていくときに、何が起きていてもやさしく広い心で受け入れるだけです。

引用元:『セルフ・コンパッションのやさしい実践ワークブック』ティム・デズモンド著、星和書店、2018年。以下同じ。

 

 

自尊心は、自分と他人を比較することで得られる傾向があるのに対し、

 

 

セルフ・コンパッションは、ただ自分をやさしく受け入れることを意味するので、比較対象となる他人の尺度がそもそも入っていないと考えることができます。

 

 

 

「わがまま」との違い

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わがままとの違いについても考えてみましょう。

 

 

同書では、わがままとは、「自分の思うままにすること」「相手や周囲の事情を試みず自分勝手にすること」とされています。

 

 

「自分自身や社会を有意義に変えていくための努力をしたがらない」とも言えます。

 

 

一方で、セルフ・コンパッションには努力の要素が自然に含まれていると言います。

 

 

セルフ・コンパッションを実践していれば、

 

今のままの自分が十分愛すべき存在であることがわかっていると同時に、自分が成長して人生をよくしていくことが価値のあることだとも思えています。

 

変わらなければいけないわけではありませんが、成長したいと思っています。

 

 

今の自分を受け入れることと、成長することは、決して両立しないものではないということですね。

 

 

 

「自己憐憫」との違い

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自己憐憫(じこれんびん)とは、読んで字のごとく、自分があわれでかわいそうな存在だと思うことです。

 

 

「自分しか見えていない状態の中で、抱えている問題を過度に不幸に感じている」ということです。

 

 

人生がどうすることもできないもの、自分はいつも犠牲者で、運命には逆らえない、と考えていることでしょう。

 

 

自己憐憫は、自分の弱さばかりにフォーカスしてしまっている状態とも言えます。

 

 

セルフ・コンパッションは違います。

 

 

セルフ・コンパッションが正しく実践できているときには、自分には大きなことを成し遂げられる力があると思えています。

 

周りのみんなとまったく同じように、自分にだって強みも弱みもあって、望めば新しい力を身につけられるとも知っています。

 

 

自己憐憫との最大の違いは、セルフ・コンパッションには、「自分の弱さだけでなく、強さにもしっかりと目を向けている」という点ですね。

 

 

 

「自己中心性」との違い

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自己中心性(egotism)は、ほかの人と比べて自分の方が優れていると考えたり、自分のニーズしか見えずにほかの人に何かをしてもらおうとする態度です。

 

 

これは、セルフ・コンパッションとは異なります。

 

 

セルフ・コンパッションを正しく実践できていれば、周りの人と自分を比べようとは思わないはずです。

 

自分だけでなく全ての人が幸せでいることに価値を感じているのです。

 

 

 

「セルフ・コンパッション」を鍛える方法

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同書には、日常生活の中で誰もがセルフ・コンパッションを鍛え、育むことのできるテクニックが数多く紹介されています。

 

 

その中から、すぐに実践できるものを3つご紹介します。

 

 

①「セルフ・アクセプタンス」

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セルフ・アクセプタンスとは、その名の通り、自分自身を受け入れることです。

 

 

身体にどんな感覚があっても、心にどんな思考が湧いても、「今、ここ」にある感覚や思考をしっかり感じたままでいるのが、この実践のねらいです。

 

 

セルフ・アクセプタンスには、「身体のマインドフルネス」と「思考のマインドフルネス」の2つの方法があります。

 

 

身体のマインドフルネス

楽な姿勢になります。

 


目は開いていても、閉じていても、かまいません。

 

 

身体にあるあらゆる感覚に注意を向けます。顔、頭、胸、お腹のあたりを特にていねいに探ります。

 

 

緊張した感じ、リラックスした感じ、重苦しい感じ、軽やかな感じ、熱さ、冷たさ、さまざまな感覚を、ただありのままに感じます。

 

 

どんな感覚が湧いたとしても、決して追い払おうとはせず、心を完全に開いて受容しながら感じ続けます。

 

 

これを5〜10分実践し、何か変化に気づいたら、書き出します。

 

 

 

思考のマインドフルネス

 

楽な姿勢になります。

 

 

目は開けていても、閉じていても、心地良い方でかまいません。

 

 

先述の身体のマインドフルネスを実践していると、自ずとさまざまな思考が湧いてきます。

 

 

例えば、身体が緊張しているとき、「こんなに緊張するのは嫌だ」という思いが湧くこともあります。

 

 

また、「マインドフルネスの実践なんてちっとも役に立たない。こんなことはもうやめて、もっと楽しいことをしよう」なんて思うときもあります。

 


そんなとき、「嫌な気持ちが湧いてくるのも無理はないよ」と自分に語りかけます。

 

 

そして、自分の心の中に苦しんでいる部分があって、それに「気遣ってあげたい」というメッセージを送ります。

 

 

また、最近自分の身に起きた出来事を思い出し、たとえば「恋人に嫌われてしまったかもしれない」「なんて愚かなことをしたんだ」といった思いが湧いてくることもあります。

 

 

そんなときは、自分自身にこのように語りかけます。

 

 

「心に浮かんでいる思考が真実かもしれないし、そうではないかもしれない。それを今決めなくてもいい。心に何が浮かんでも、ただそれを受け止めるだけでいい」

 

 

心身に起こるさまざまな出来事を、価値判断をはさまずに、ただ受け止めるという姿勢を保つことにより、思考や感情に巻き込まれない状態を作り上げていきます。

 

 

 

②苦しさを抱きしめる

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苦しさを抱きしめる実践は、自分に対する思いやりや慈悲の心を育むトレーニングでもあります。

 

 

このトレーニングの前には、先に紹介した「セルフ・アクセプタンス」の実践を数分行っておくとより効果的と言われます。

 

 

 

まず、楽な姿勢になります。

 

 

そして、昔からよく知っている人、可愛がっているペット、また母なる自然のイメージなど、自分を愛して受け入れてくれる存在を思い浮かべます。

 

 

その存在が、自分の心に一番響くやり方で、コンパッションを伝えてくれるところを想像します。

 

 

たとえば、その存在が私に対して、

 

 

 あなたが幸せでありますように

 健やかでありますように

 安全でありますように

 愛されますように

 

 

などといったセリフが語りかけられるところを想像します。

 

 

そして、何度かそう言ってもらったのちに、自分の気持ちがどのように変化したかを観察します。

 

 

 

③過去の傷を癒す

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誰しも、過去に起きたつらい出来事や、トラウマを抱えているものです。

 

 

同書では、過去の出来事そのものは変えられなくても、それが及ぼす影響であれば変えられるとしています。

 

 

神経科学者たちは、過去の記憶が書き換えられることを実際に示しています。

 

過去からの傷を変容するには、当時の痛みをもう一度しっかり感じながら、同時にコンパッションを体験することが必要になります。

 

そのとき、記憶の再固定化というプロセスが脳で起きて、過去の体験への情動反応が文字通り書き換えられるのです。

 

 

まず、楽な姿勢になります。

 

 

この瞬間に、自分の中にある苦しさに気づきます。

 

 

怒り、恐れ、悲しみ、欲求不満、寂しさ、緊張など、どんな形にしても、苦痛があるのを認識します。苦痛を追い払おうとはしません。

 

 

次に、その苦しみを感じながら、自分に尋ねます。

 

 

これとまったく同じ気持ちを最初に感じたのは、いつ?

 

 

5歳でも、20歳でも、その気持ちを最初に感じた年齢の自分を思い浮かべます。

 

 

そして、現在の自分が、過去の自分を見つめます。

 

 

過去の自分になんという言葉をかけてあげたいかを書き出してみます。

 

 

たとえば、

 

 

君は愛すべき存在で、ひどい扱いを受けなければならない理由なんて何一つない」と伝えてみてもいいかもしれません。

 

 

コンパッションを伝えられた過去の自分が、愛情を受容するのか、防衛的なそぶりをみせるのか、反論するのか、その様子をイメージします。

 

 

過去の自分が愛情を受け止め、コンパッションの体験が強くなるようであれば、そのまま5〜10分続けていきます。

 

 

 

おわりに

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以上、セルフ・コンパッションの基本的な考え方と、実践できるテクニックをご紹介しました。

 

 

繰り返しになりますが、セルフ・コンパッションは、単なる気休めでもなければ、一部の怪しい宗教やスピリチュアルでもありません。

 

 

誰でも、日常生活に取り入れることのできる、実践的なテクニックです。

 

 

自分はダメ人間・・と思う傾向のある方、

 

 

また真面目で自分に厳しい性格の方や、完璧主義の方には特におすすめです。

 

 

このエントリでは、この本に収められている実践テクニックのうち、取り組みやすいと思ったものを一部抜粋して紹介しています。

 

 

あくまで抜粋のため、より体系的に取り組む場合には、やはりこの本を手に取り、フローチャートにしたがって1から実践するのが良いと思います。

 

 

フローチャートにしたがって、1日30分のトレーニングを14日間続けることで、メンタルに一時的ではない持続的な変化がもたらされることがわかっているそうです。

 

 

気になる方は、ぜひ試してみてください。

 

 

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パオ

*1: 宮川 裕基・谷口 淳一(2016). セルフコンパッション研究のこれまでの知見と今後の課題-困難な事態における苦痛の緩和と自己向上志向性に注目して- 帝塚山大学心理学部紀要, 第5号, pp.79-88