【生活編】ヴィパッサナー瞑想センター(京都)10日間コース参加レポート
ヴィパッサナー瞑想センター(京都ダンマバーヌ)で行われる10日間の瞑想合宿に行ってきました。シリーズでお届けする参加レポート第4弾は、【生活編】。1日のスケジュールや守るべきルールについて詳しくご紹介します。
はじめに
センター入り口の看板
京都と千葉の山奥にある「ヴィパッサナー瞑想センター」。
ここは、本格的な「ヴィパッサナー瞑想」を体験できる、日本でも数少ない施設です。
瞑想実践者にとってはいわずと知れた存在。人生で一度は行ってみたいところです。
そして、ついに私も、行ってきました!
「10日間コース」に申し込み、2019年5月8日〜19日まで、泊まり込みでがっつり瞑想してきました。
とても濃密な体験でした。
一つのエントリではとても語りつくせないので、参加レポートをシリーズでお届けしたいと思います。
今回は、【生活編】です。
10日間、参加者たちは、いったいどんな生活をするのか。
ネット上にはあまり情報がなく、謎に包まれています。
実際に経験した身からすると、これ、正直にいって、ちょっと普通の生活ではありませんでした。
守らなければいけないルールが盛りだくさんで、なかなかの非日常体験でした。
実際、どんな生活だったのか、明らかにしていきたいと思います。
1日のスケジュール
施設内に掲示されているスケジュール表
はじめての参加者が参加できるコースは、「10日間コース」のみです。
10日間コースといっても、前後の到着日、出発日は含まれていないので、実質は12日間あります。
そして、その間は、基本的に毎日同じスケジュールにしたがって動きます。
4:00 |
起床 |
4:30 |
瞑想 |
6:30 |
朝食、休憩 |
8:00 |
グループ瞑想 |
9:00 |
瞑想 |
11:00 |
昼食、休憩 |
12:00 |
指導者との面談 |
13:00 |
瞑想 |
14:30 |
グループ瞑想 |
15:30 |
瞑想 |
17:00 |
ティータイム、休憩 |
18:00 |
グループ瞑想 |
19:00 |
講話 |
20:15 |
グループ瞑想 |
21:00 |
ホールにて質問 |
21:30 |
消灯 |
これ、ようは、睡眠と食事以外、ほとんど瞑想の時間なんですねw
1日の瞑想時間は、約10時間。これを10日間ですから、合計100時間にもなります。
「グループ瞑想」の時間は、全員が瞑想ホールで瞑想することを求められます。
体調がすぐれないなど、よほどの理由がない限り、瞑想ホールの外に出ることはできません。
トイレに行くこともできなくはないですが、トイレの近くまでスタッフがついて目を光らせたりしています。
「グループ瞑想」は1日に4回あり、この時間は気合いを入れて臨みます。
それに対して、単に「瞑想」とされている時間は、瞑想ホールで瞑想しても、自分の寝室で瞑想しても大丈夫です。
トイレに行ったり、少しの間お庭を散歩したりしても問題ありません。
寝室で瞑想することにはなっていますが、特に監視されたりはしないので、ガッツリ昼寝をしている人もいました。
この時間は、瞑想ホールでまじめに瞑想している人は、5〜7割といったところでした。
瞑想や食事の時間になると、スタッフが鐘を鳴らせて知らせてくれます。
コースの4日目、10日目など、特別な瞑想の指導があるときは、若干スケジュールがイレギュラーになりますが、基本的には、毎日このタイムテーブルで動きます。
朝4時起きは、さすがにはじめはキツかったです。でも、夜の就寝も早いので、2〜3日目からは慣れました。
初日と最終日の流れ
施設内の様子
初日の流れ
初日(到着日)は、0日目とカウントされます。
14:00〜 |
参加者が順次到着 |
16:00〜 |
順次受付 |
19:00 |
簡単な夕食 |
20:00 |
オリエンテーション |
21:30 |
消灯 |
16時頃から、ダイニングルームで順次受付が始まります。
受付にあたっては、申込書に必要事項を記入します。外国人の参加者も多いため、英語版もあります。
申込書には、住所氏名や、簡単な経歴などを記入します。
加えて、日常的な瞑想実践の有無や、メンタル疾患の有無、酒・タバコの習慣などについても確認されます。
この受付の時間は、誓約の時間にもなっていて、コース中に守らなければならないルールを「守ります」と誓うことになります。
簡単な夕食のあと、オリエンテーションがあります。
スタッフの紹介や、守らなければならないルールについて、細かく説明があります。
最終日の流れ
最終日(出発日)は、11日目にあたります。
4:00 |
起床 |
4:30 |
グループ瞑想 |
6:30 |
朝食 |
7:30 |
清掃 |
8:30〜 |
順次出発 |
最終日は、4:30からの瞑想は強制参加でした。
最後の瞑想を終えたあと、朝食をとり、全員でセンター内の清掃を行います。
瞑想ホール、宿舎、ダイニング、トイレやシャワー、お庭など、それぞれグループに分かれて、掃除します。
その後、バスの時間に合わせて、仲間に別れを告げ、順次出発となります。
守るべき規律
施設内の様子
コース中は、守らなければならないルールがたくさんあります。
このセンターで指導される瞑想法は、S.N.ゴエンカ氏(1924-2013、ミャンマー出身)と呼ばれる人物によって確立されました。
彼は、長年の瞑想指導の経験から、瞑想の効果が最大化されるよう、コース中に参加者が守るべきルールを細かく定めました。
ただ、ベースにあるのは、伝統的な仏教の戒律です。
コース中、瞑想中や講話の中で、ルールを厳守するよう、しつこく言われます。
では中身を見ていきましょう。
殺生の禁止
生き物は殺してはならないということです。
コース中に提供される食事も、基本、ベジタリアンメニューです。肉や魚など、殺生によるものは一切提供されません。
ミルクやバターは出されますが、これらは直接殺生の産物ではないので、そこは厳格だったと思います(詳しくは食事編を参照のこと)。
あと、センターの敷地内には、アリ、ハチ、トンボ、クモ、トカゲ、鳥類などさまざまな生き物がいます。
そこまでしつこくは言われませんでしたが、アリも踏んずけてはいけないことになっています。
あと、私は直接見ませんでしたが、ヘビやムカデなどもいるらしく、靴の中に紛れ込んだりするらしいです。要注意ですね。
性的行為の禁止
男女の生活圏は完全に分けられていて、コース中は一切接触できません。
これは、カップルで一緒に参加したとしても、コース中は目を合わせる機会もありません。
あと、自慰行為もダメですということも、暗に言いたいのだろうと思います。
酒、タバコの禁止
酒、タバコもダメです。
気分を高揚させたり変化させたりするものは、基本ダメです。
ただ、メンタル疾患などがあり、薬を服用する必要がある場合は、センターの許可を得て服用します。
指導者と瞑想法の受け入れ
コース中、瞑想を実践するにあたっては、指導者の指示に完全に従う必要があります。
指導される瞑想のメソッドは、完成されたものであり、自分なりにアレンジしたりしてはいけないことになっています。
参加者は、お客さんではなくあくまで「生徒」。指導者との上下関係は明確です。
このあたりのスタンスは、昔ながらの感じがして、とまどう人もいるかもしれません。
ただ、本当は指導者もスタッフも全員ボランティアなので、普段は日本で普通に生活している、ごく普通の人たちです。
高圧的な態度を取られたりすることはないので、安心して大丈夫です。
また、指導者の指示に従うにしても、「盲目的な服従」であってはいけないということが強調されます。
指導方法などに疑問が生じた場合は、決められた時間に指導者に個別で質問することができます。
自分で理解・納得した上で実践を進めるという設計になっています。
実際に、コース中に生じた全ての疑問を解消できるかどうかは別問題ですけどね。
他の瞑想法の禁止
このセンターで指導される瞑想法は、「宗教ではない」ことが強調されています。
どんな信仰を持っていても、また宗教そのものに抵抗がある人にとっても、取り組めるものという説明がなされます。
ただ、このセンター、なんとなく怪しい雰囲気が漂っていることは否めないんですよね。。
私が感じる「怪しさ」「宗教っぽさ」については、怪しさ・批判編に詳しく書いています。
とりあえず、ここで指導される瞑想法は、宗教ではないことになっていて、コース中に参加者が勝手に宗教的な要素を取り入れることは、固く禁じられています。
数珠、お守り、十字架などを持ち込んではいけませんし、呪文などを唱えることも禁止です。
聖なる沈黙
守るべきルールの中でも、特にインパクトが大きかったのが、これです。
「聖なる沈黙」。
コース中、全ての参加者は、これを守らなければなりません。
「聖なる沈黙」とは、要するに、他の参加者とのコミュニケーションの一切が禁止されるということです。
会話、ジェスチャー、ボディタッチ、アイコンタクト、筆談など、一切のコミュニケーションが禁止です。
男女合わせると、60人くらいが同じ敷地内で集団生活してます。
そんな環境で、10日間も、人と一切コミュニケーションを取らないなんて、想像できますか?
ちょっと普通では考えられないことです。
食事も、トイレやシャワー、洗面所も、共用の設備を使いますが、「お先にどうぞ」とか、そんなジェスチャーもしてはいけないんですね。
アイコンタクトもダメですから、みんな真顔で、ちょっとうつむき加減で、1日中過ごす感じです。
ゾンビみたいですよ。本当に。
ただ、不思議なことに、コミュニケーションがないということに関して、私は全く苦痛を感じませんでした。
むしろ、心地良いくらいでした。
人と仲良くなりたいとか、仲良くしなきゃとか、失礼のないようにとか、そういうことを考えずに済むので、とても楽でした。
他人のことを考えずにすみます。その分、自分の瞑想に集中できるのです。
10日目(出発日の前日)の午前中、「聖なる沈黙」は解かれます。
私もこの時はさすがに嬉しくなって、たくさんの人に話しかけました。
みなさん初対面ですが、なにせ100時間の修行をともにした同志です。話したいことがたくさんあります。
外国人も含め様々な人が来ていて、交流の時間は有意義かつ楽しいものでした。
一方で、沈黙が解かれたあと、瞑想の質はガクッと落ちました。
「聖なる沈黙」のルールが、瞑想の質を高めていたこと、これは自分の感覚からいっても間違いなさそうです。
なお、コース中でも例外的に、体調に異変を感じたときや生活上何か困ったときは、スタッフに相談することはできます。スタッフも、親身に相談に乗ってくれますので、そこは安心して大丈夫です。
運動の禁止
ヨガ、ストレッチ、ジョギング、筋トレなどの運動はすべて禁止です。激しい運動によって、呼吸が荒くなったり筋肉を痛めたりすると、瞑想の妨げになるからです。
許されているのは、お庭を散歩したり、早歩きしたりすることだけです。
1日10時間も座りっぱなしなので、肩や腰がガチガチに痛くなります。
私は、休憩時間は極力お庭を歩くようにして、カラダをほぐしていました。
意外にも、休憩時間は、けっこう長いです。やることといえば、散歩か昼寝くらいのもの。
森に囲まれた敷地の中で散歩するのは、とても良い気分転換になりました。
外部との接触禁止
これも、インパクト大でした。
電話、テレビ、ラジオ、インターネットは一切使用禁止です。
要するに、デジタルデトックスです。
スマホ類は受付の時に全て預けてしまっていますから、どうやってもネットにはアクセスできません。
自分の仕事のこととか、家族のこととか、心配しても確認のしようがないです(よほどの緊急事態には、家族からセンターに電話が入るはずです)。
あきらめがつき、外の世界にだんだん関心がなくなります。
ネットから入ってくる情報の大部分は不要なものですし、外部の情報に惑わされずに自分と向き合える時間というのは、本当に貴重に感じました。
また、プログラムが全て終了するまで、敷地の外に出ることは許されません。
塀があるわけではありませんが、外に出られないようになっています。
ただ、何らかの理由で帰る必要があるときは、スタッフに申し出て、早退することはできます。
私は、こういう特殊な環境にもうまく馴染めた方だと思います。しかし、それでも10日が限界でした。
もっと長期間だとしたら、もしかしたら気がおかしくなっていたかもしれないです。ちょっと想像がつきません。
音楽、読書、メモの禁止
音楽を聴いたり、読書をしたりすることもダメです。要するに、娯楽は全てダメなのです。
驚いたのは、メモもダメだということ。文房具も、受付時に預けてしまいます。
真面目な人だと、教わった瞑想法の内容を記録しておきたいなんて思うかもしれませんが、これもダメです。頭で記憶するしかありません。
ここまでくると、さすがにやりすぎ感ありますね。。
ただ、ペンとノートがあると、日記なんかを書いてしまうこともあります。
するとそれが余計な思考や妄想のエサになり、瞑想の妨げになることはあると思います。
服装上の注意
体のラインがわかるような服、肩や膝上が露出する服は禁止です。
とにかく、男女に関わらず、他人の注意を引いたり、気を散らすような格好はしてはダメだということです。
他人の瞑想実践のジャマをしない、これを徹底します。
体調管理
瞑想ホール外観
10日間の瞑想実践は、ただでさえ厳しいものです。
体調を崩してしまえば、その厳しさは倍増するので、体調管理には万全を期したいところです。
それでも、特に男性陣は、体調を崩している人が多く見られました。
これ、私が推測するに、朝晩の冷え込みに原因があるのではないかと思います。
私が参加したのは5月でしたが、この時期でも、朝晩は吐く息が白くなるほど気温が下がっていました。
山の気候をなめてはいけません。
おまけに、暖房設備が完備しているとは到底いえない環境です。
瞑想ホールも寝室も、外の空気が入るので、けっこう冷えます。
持ち物編に詳しく書きましたが、防寒対策は、真冬でなくても手を抜かない方がいいです。
常に、5人くらいが風邪の症状に悩まされていて、薬を飲んでいる人もいたようです。
瞑想中も、ひんぱんに咳、くしゃみ、鼻水などの音が聞こえました。
「風邪うつされたらやだな」とか思っても、どうすることもできません。
うがい手洗いなどを徹底して、あとはこれも修行の一環だと思って気にしないように努めました。
すると、本当にだんだん気にならなくなりました。
睡眠
宿舎内の様子
日中、ほとんどの時間を、薄暗いホールの中で目をつぶって過ごすわけです。
夜よく眠れないと、どうしたって瞑想中、強い眠気におそわれます。
夜の睡眠は、全ての要です。
毎日、夜9時に瞑想が終わると、私はさっさと布団の中に潜り込んでいました。
部屋がまだ明るくても、アイマスクをすれば快適に寝られます。
あと、持ち物編にも書きましたが、同室の人がいびきをしていると、それが気になって眠れないことがあります。
耳栓を持っていくことをおすすめします。あって大正解でした。
私は、こういう特殊な環境だと、なかなか寝付くのに時間がかかるタイプなのですが、コース中は意外にもよく眠れました。
毎日朝4時起きですから、日が暮れる頃には、カラダがいい感じで疲れていたのかもしれません。
あと、余談ですが、布団に入ってから「食べもの」のことだけは考えないようにしましたw
午後はフルーツしか食べていないですから、空腹を刺激にないように努めました。
おわりに
施設内の様子
守るべき規律、盛りだくさんで、どれも普通では経験しないものばかりです。
ただ驚いたことに、参加者のみなさんは、男性も女性も、日本人も外国人も、これを忠実に守っていました。
1人か2人、センターでの生活が耐えきれなくなって途中で帰った人がいましたが、それ以外は、みなさん優秀に日程をこなし、トラブルは全くといっていいほど起きなかったです。
スケジュールも決まっていますし、ルールも確立されているので、コミュニケーションがなくても、集団生活が成り立ってしまうんですね。
表現が適切ではないと思いますが、なんというか、ちょっと囚人みたいだな、と思ったりしました。
規律ある生活、外部との接触禁止、チャイムとともに進むタイムテーブル。。
かつて、ヴィパッサナー瞑想を刑務所に応用したインド人がいたそうですが、なんかわかる気がします。
不自由きわまりない生活。
ただ、外形的な不自由さとは対照的に、自分の心は、どんどん自由になっていく、そんな風にも感じられました。
参考になれば嬉しいです。
※本エントリに掲載されている施設内の写真は、全て筆者が撮影したものです。写真の撮影・掲載については、事前に許可を得ています。
パオ